あすはひのきになろう

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シャーロック・ホームズ対伊藤博文【感想】

 

 2020年9月21日読了。

あらすじ

ゴッド・オブ・ミステリー・島田荘司推薦! これは歴史の重厚に、名探偵のケレン味が挑む興奮作だ。シャーロック・ホームズが現実の歴史に溶けこんだ。いかに彼は目撃者のいないライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授に対する正当防衛を立証し、社会復帰しえたのか。日本で実際に起きた大津事件の謎に挑み、伊藤博文と逢着する。聖典【シリーズ】のあらゆる矛盾が解消され論証される、二十世紀以来最高のホームズ物語。

出典:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212670

 

 

感想

 別にホームズと伊藤がボコボコ殴り合う話ではありません。いやまぁそういうシーンが全くないわけではないですが。むしろどっちかというと二人で協力して事件を解決しようとする、というお話です。作者は『万能鑑定士Q』シリーズの方ですが、現実の中に魅力的な虚構を紛れ込ませるのが非常に巧みな方で、その手腕は舞台を過去に移した本作でも、遺憾なく発揮されています。大津事件を中心に、伊藤とホームズの出会いから別れまでが史実と絡めて違和感なく描かれており、割と長めの話ですがサクッと読めました。いわゆる「大空白時代」に焦点をあてていたり、正典を読んでいると理解できる小ネタがあったりと、ホームズのパスティーシュとしてもなかなか面白い(たとえば「まだらの紐」の矛盾 *1に説明を付けていたりとか)ですし、大津事件やモリアーティを殺害したホームズの葛藤を通して、近代国家、法治国家の在り方について触れられるなど、いろんな視点から読むことが出来ると思います。ただ、純粋な謎解きものとしては付随する要素が多いので、冒険活劇として読むのが良いかも知れません。正典も結構そういう面がありますしね。あとはしゃあないっちゃしゃあないですけど日露戦争の結果を予見して見せたりとか、そうでなくともちょっとホームズが日本贔屓過ぎやしないか、とかはどうしても思ってしまいます。まぁでも明治期の列強に追いつけ追いこせの頃の日本はある意味一番輝いてた頃だから多少はね、って感じですかね。

*1:まだらの紐 - Wikipediaの「毒蛇の謎」の項を参照