あすはひのきになろう

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日本SFの臨界点[怪奇篇]──ちまみれ家族【感想】

 

2021年8月6日読了。

 

あらすじ

日本SFは、ここまで奥が深い。

「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称された伴名練が、全身全霊で贈る傑作アンソロジー。日常的に血まみれになってしまう奇妙な家族を描いた津原泰水の表題作、中島らもの怪物的ロックノベル「DECO-CHIN」、幻の第一世代SF作家・光波耀子の「黄金珊瑚」など、幻想・怪奇テーマの名作十一本を精選。

出典:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014578/

 

 

 

感想

 『なめらかな世界と、その敵』の伴名練が編者を務めるSF短編アンソロジー。『日本SFの臨界点』は本作と対になる形で刊行された [恋愛篇]と、個人傑作選となる「中井紀夫 山の上の交響楽」「新城カズマ 月を買った御婦人」が現在までに刊行されています。

 特に面白かったものに絞って感想を軽く述べておきたいと思います。

中島らも「DECO-CHIN」

 シンプルにクレイジーインパクトで言えば本作が一番でした。常人と異なる人たちに天才性を付与させるタイプの話ですが、それにしても主人公がクレイジーすぎる。最近だとこういう話は書きにくいかもしれないですね。

中田永一「地球に磔にされた男」

 乙一がこんなに別名義持ってるとは知らなかった。読後感の良いタイムスリップ?パラレルワールド?もの。一連の展開に説得力があり、かつ、過剰に説教くさくないところが良いと思いました。

中原涼「笑う宇宙」

 一回読んだだけだとオチの解釈が難しかったです。というか、今でもちゃんと分かってるかと言われると微妙……。結局何が真実かは読者に委ねられてるんですかね? 陰鬱ですが印象的でした。

谷口裕貴「貂の女伯爵、万年城を攻略す」

 読み物として面白かったですね。知能の発達した動物兵士たちの描写を読むだけでわくわくさせられました。一方で人間さんたちは……。

石黒達昌「雪女」

 これも文体は報告書というか記録っぽくて淡々としてるんですが、だんだんと雪女という存在がどのようなものであるかが開示されていく過程が面白くてすらすら読み進められました。必要以上に叙情的でないのもかえって良かったです。

 

 SFはなんだか敷居が高くて手が出しづらい印象も強いですが、気になったやつはチェックしていきたいですね。個人的には日本ライトノベルの臨界点とかも欲しくなりますが、そもそも短編作品が少ないから難しそう。