あすはひのきになろう

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公務員、中田忍の悪徳【感想】

 

2021年10月6日読了。

 

あらすじ

未知との遭遇ーー地方公務員×異世界エルフ
区役所福祉生活課支援第一係長、中田忍(32歳独身)。
トレードマークは仏頂面、責任感が強く冷酷で誠実、他人に厳しいが、自分自身にはもっと厳しい男である。
無感動、無愛想、無慈悲の三拍子揃った生き様は、他の職員に“魔王" “爬虫類" “機械生命体“などと評され陰口を叩かれているが、忍はどこ吹く風であった。

ある日の深夜。
仕事から帰宅した忍は、リビングに横たわるエルフの少女を発見した。
濡れタオルで鼻と口を押さえつつ、知恵の歯車を回し始める忍。
仕方あるまい。
忍は、地球の危機を悟ったのだ。

異世界からの来訪者と遭遇した際、まず警戒すべきは“異世界の常在菌"である。
仮に異世界エルフの常在菌が、人類絶滅系の毒素を放出していた場合、焼却処理では間に合わない。ダイオキシンの如く、半端な焼却処理が土壌を侵し、その灰が風に乗り雲になり、毒の雨となって大地に降り注ぐ可能性も否めないのだ。
ならばエルフを即座に、極低温で凍結し、最善で宇宙、あるいは南極、最悪でも知床岬からオホーツクの海底へ廃棄するしかない。

必死に足掻く忍の前で、エルフの両瞼がゆっくりと開きーー

第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞を受賞した、紛うことなき問題作。

〈 編集者からのおすすめ情報 〉
とにかくエルフがむちゃくちゃ可愛い! 前代未聞のボーイ・ミーツ・ガールは、サスペンスフルでハートフルな超怪作!

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09453029

 

 

第15回小学館ライトノベル大賞《優秀賞》受賞作品。受賞時の名義は「太刀川主」。ゲスト審査員のカルロ・ゼンによる講評は以下の通り。

何をもって評価するのかという点で、全く印象が異なる作品です。長所と短所が同居しているといわざるをえません。たぶん、鉄砲を初めて見た弓の名人のような顔をしています。最大の長所は、『ファーストコンタクト』というところの徹底的な掘り下げにあります。異世界からの住人と接したとき、果たして、どのように行動するのか? 『出会う→物語が始まる』という構図はそういう意味で既存作品とも似ているのかもしれませんが、似ているのはそこだけともいえます。徹底して、ファーストコンタクトを掘り下げていくという姿勢は、強烈なオリジナリティの塊に他なりません。とびぬけて、強力なパンチ力でした。出会ってからのやり取り―やり取りというか、コミュニケーションというか、文字通りに手探りで関係を構築してく部分には書き手なりの個性と工夫が輝いてもいました。キャラクターの作り込みだって、『この世界の住人』と『別の世界からの住人』という二つの異なる価値観のキャラクターを無理なく一つの部屋に落とし込むのは、相当に工夫されたのだろうなと技を見る思いです。同時に、ある種の短所も『ファーストコンタクト』に徹しているが故のものと感じられました。何を問題点とみなすか? という冒頭のところに戻るのですが、ファーストコンタクトという視点で見る場合、その掘り下げ度合いは完璧そのものです。ですが、起承転結という視点で見ると、前半にあった物語の勢いがどうしても後半では保てなくなったように感じられるのです。文章力の高さと設定の練り込みが巧みなので、面白さが途絶えるわけではありません。ですが、メディアミックスを前提としなければ面白さを広く伝えるには適していないのではないか、とも感じてしまいました。

出典:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry15_FinalResult.html

 

感想

 あんまり合わんかったかな~っていうのが正直なところ。ざっくり言うとシチュエーションコメディになると思うんですけど、それにしてはギャグが弱い。シチュエーションが限られており、大きな動きに欠ける以上、会話と室内での動きによって笑いを取る必要があるのですが、後述のSFとしての側面の要請から、一つのネタを結構引っ張るのであまりテンポが良くないし、そもそもギャグと持って回った言い回しの文章の相性があまりよろしくないように感じました。義光がツッコミ役としては切れ味に欠け、ツッコミを半ば読者に任せている節もあります。文章について言えば、擬音語や擬態語でいちいち改行するのが個人的にはなかなか慣れられず、違和感が強かったです。全体的に、きっと絵面としてみれば面白いんだろうけど、文章だと笑えるってとこまではいけないなぁみたいな場面が多かったので、漫画とかになるとまた違った印象を持つかもしれません。文章で笑わせるって、めちゃくちゃ難しいですしね……*1

 で、未知の存在と遭遇する一種のSFとしての側面から考えると、今度はエルフの掘り下げが足りなさすぎるんですよね。ただ、このエルフと主人公のキャラによって、しばしばある「人間でない存在とのドタバタ同居もの」と差別化を図っている以上、ここを動かすのは難しいかもしれません。例えばこのエルフが『六畳間の侵略者!?』のころな荘の住人たちと同じようなキャラであったなら、本作は成立し得なかったでしょう。

 以上のような点で、ちょっと自らに課した縛りの厳しい作品だったなぁと思います。もう少し設定を緩めて、のびのび書いても良いのでは、と思わざるを得ませんでした。

*1:もう少し言うと、行動を文章で表現して笑わせるのはめちゃくちゃ難しいと思います。受け手が文章を読む→その情景を想像する、という2ステップを踏む必要があるので。それに対して、会話とか言い回しで笑わせるのは一段ハードルが下がる気がします。本作について言えば、前者によって笑いを取ろうという場面が多かったこともあんまり笑えなかった一因としてあると思います。