あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る【感想】

 

2021年9月6日読了。

 

あらすじ

〈 書籍の内容 〉
交わることのない、君と出会った。
天空に浮かぶ「世界時計」を境に分かたれた「天獄」と「地国」。地国で暮らす死者の僕はある日、常夜の空から降ってくる彼女を見つけた。
一目見た瞬間から僕はもう、恋に落ちていた。

彼女の名前はファイ。僕の名前はデッド。
彼女はヒトで、僕は死者。だからこの恋は、きっと実らない。
それでも夜空は今日も明るい。

二つの世界の引力バランスがひっくり返る「天地返り」の日まで、僕は地国のゾンビから彼女を守り、そしてきちんと「さよなら」を告げる。

これはやがて世界を揺るがすことになる、相容れない僕たちの物語だ。

第14回小学館ライトノベル大賞・ガガガ賞受賞作!!
〈 編集者からのおすすめ情報 〉
ゲスト審査員に若木民喜先生をむかえた今回のライトノベル大賞。
その中でも特に世界観などが評価され、ガガガ賞を受賞するに至りました本作。

独特の空気感と、心がなんだか優しくなるような主人公の性格がイチオシです。
ちょっと強気なヒロインとの掛け合いも素敵!

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451855

 

 

第14回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作品。受賞時のタイトルは『デッドリーヘブンリーデッド』。名義は余命零。ゲスト審査員の若木民喜による講評は以下の通り。

すごく楽しかった。デッドとファイの関係性がけなげでとても良くって、2人を応援しながら読めました。文章も簡潔ながら必要なことを良いタイミングで出してきてくれて、先が気になってちょっと時間が空く度にいそいそと読んでいました。地国編は最高。クロス君の血で描いた「ごめん」にはズキーンとしました。
なんなら、天獄に行かなくてもよかったぐらいです。感情移入はすっかりできていたので天獄編の期待感はすごかったんですよ。なのにえらく駆け足で残念。天獄編をもっと長く見たかった!

出典:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry14_FinalResult.html

 

感想

 角川スニーカー文庫から『まるで人だな、ルーシー』でデビューした作者の再デビュー(といっていいのかわかりませんが)作。未読ですが、『いずれキミにくれてやるスーパーノヴァ』といい、この人タイトルのセンスが異常に良いんですよね。

 が、内容はかなり薄味。前作が非常に尖っていただけに意外でした。投稿から4年前程前に執筆されたそうなので、『まるで人~』との正確な執筆の前後関係はわかりませんが、なんだか悪い意味で丸くなってしまっているような気がしました。ストーリーに大きな起伏がなく、盛り上がりに欠けるというか、そういう場面は用意されていても、十分盛り上がりきらないという感じ。世界観やキャラといった素材は悪くないだけに、なんだか物足りない印象が強かったです。情景描写が淡泊で、シチュエーションを絵として脳内に浮かべづらかったことや、全体的に駆け足気味で、ダイジェスト感が強かったことも物語に没入しきれなかった一因かもしれません。

 個人的には、デッドがヒトを絶対的に肯定的な存在として捉えている一種の卑屈な態度は、もう少し掘り下げて描いても良かったような気がします。そもそも本作の世界観では、ヒトと死者はゆるやかな上下関係というか、死者はヒトに迷惑をかけちゃいけないみたいな意識が死者側にあるみたいで、それ自体はふーんって感じなんですが、あとがきを読むにどうもこれはいわゆる「陽キャ」と「陰キャ」(作者の表現に従えば「太陽属性」と「月属性」)を仮託した表現みたいなんですよね。そう読むとう~ん、と思ったり。