あすはひのきになろう

ライトノベルを中心にいろんなコンテンツの感想を記録していきたいブログ

ニキ【感想】

 

2021年10月3日読了。

 

あらすじ

高校生・田井中広一は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう。そんな広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平だった。穏やかな人気教師で通っていたが、それは表の顔。彼が自分以上に危険な人間であると確信する広一は、二木に近づき、脅し、とんでもない取引をもちかける――。嘘と誠実が崖っぷちで交錯し、追い詰めあうふたり。生徒と教師の悪戦苦闘をスリリングに描き、読後に爽やかな感動を呼ぶ青春小説。2019年ポプラ社小説新人賞受賞作。

出典:https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008292.html

 

 

第9回ポプラ社小説新人賞受賞作品。受賞時のタイトルは『Bとの邂逅』、名義は宮本志朋。受賞時の講評は以下の通り。

子どもの頃から「普通じゃない」と言われてきた高校生の広一は、担任の美術教師の二木の「秘密」を知っている。万引きが見つかった際、親の代わりに二木を呼んだことがきっかけで、二木の秘密を黙認する代わりに、広一は、自ら書いた小説の感想をもらうことになる。
二木の抱える「秘密」は個性と社会の極度の緊張を問う難しいテーマで、選考会でも議論の焦点となったが、そのテーマをとても丁寧に真摯に描ききっている。一方、広一と二木の奇妙な関係が物語を牽引し、エンターテインメント性も非常に高い。圧倒的な筆力と完成度を兼ね備えており、新人賞の受賞となった。

出典:https://www.poplar.co.jp/award/award1/9.html

 

感想

 面白かったです。講評の受け売りのようですが、驚くべきは、いわゆる作者が伝えたい、描きたい、表現したいんだろうなぁ(と自分が受け止めた)テーマという側面と、小説というエンターテインメントとしての側面が両立しているところです。これで作者は新人でいらっしゃるというのだから恐れ入ります。

 序盤は主人公となる少年の自分勝手さにヘイトがたまりましたが、教師である二木の秘密が明らかになってからは、二人の駆け引きと掛け合いが読み手を強く牽引し、クライマックスに至るまでダレるところがない。一方で、物語のなかで、両者の持つ「普通ではないところ」と、どう向き合っていくか、それを備えた上でいかに社会で生きていくか、という現実に広く敷衍できる問題をしっかりと描き出しています。登場人物がみんな一面的でないところも良い。物語上の敵役であっても、恐らく広一の視点からでは完全に推し量ることができないような考えや心情があるんだろうな、という示唆がしっかりとある。誰もが程度の違いはあれ、生きづらさを抱えて生きているんだ、と気づかされます。オチも、初読時はぶつ切り感が強かったんですが、改めて終盤を読み直してみると、象徴的に上手くまとめられた綺麗な終わり方だと感じます。

「自分を好きでいられる行動を取りなさい」

(中略)

「そしたら大人しくしててくれるから・・・・・・・・・・・・」(p.310-311)

 一つの指針となる、というと自己啓発感あって怪しい感じですが、そうした生き方を示す、総じて完成度の高い作品だったと思います。

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