あすはひのきになろう

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彼女。 百合小説アンソロジー/相沢沙呼/青崎有吾/乾くるみ/織守きょうや/斜線堂有紀/武田綾乃/円居挽(実業之日本社)【感想】

 

2022年8月20日読了。

 

あらすじ

“百合”って、なんだろう。
新時代のトップランナーが贈る、全編新作アンソロジー

彼女と私、至極の関係性。“観測者"は、あなた。
珠玉の7編とそれを彩る7つのイラスト。
究極のコラボレーションが実現!

出典:https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-53804-4

 

 

感想

 表紙の女の子の目、向き合っているらしき別の子が映り込んでますね。百合ものは大体女の子が二人で向き合ってて、女の子が正面を見てたら男性の存在を暗示してる、みたいなネタを拾ってるのかな。初読みの作家もチラホラ。全体的には結構満足度の高いアンソロジーでした。

織守きょうや「椿と悠」/扉絵 原百合子

 一番オーソドックスというか、端正な作品だったのがこれ。言ってしまえばアンジャッシュなんだけど、すれ違いを両者の視点から丁寧に描いていること、何にも考えてないキャラが無邪気に関係性に強い影響を与えてるあたりが面白くて良かった。

青崎有吾「恋澤姉妹」/扉絵 伊藤階

 なかなかバイオレンスなエピソードで最初は面食らった。世界観やネーミングは西尾維新も彷彿とさせる。関係性を鑑賞する他者の視点を強く浮き彫りにするストーリーが面白く、オチの台詞も気持ちいい。タイトルの恋澤姉妹がどちらかというと舞台装置で、主人公の芹と直接は登場しない師匠の除夜子の関係性がメイン。ラストにかけて除夜子の意図が明らかになる構造も良い。

武田綾乃「馬鹿者の恋」/扉絵 けーしん

 割とありふれたテーマで、何となくオチは読めるし、包丁を使わなかったのも(作劇的にはこれが非常に重要な象徴なので必然的なのは理解はできるけど)やや拍子抜け。ただ何気ない暗喩や台詞回しが良くて、主人公のどうしようもない傲慢さには、やるせなさを感じました。

円居挽「上手くなるまで待って」/扉絵 toi8

 大学時代の先輩の意図を探る、みたいなお話なんですが、終始ごちゃついていて、いまいち輪郭を捉えきれなかった。文藝バトルの件はともかく、他の描写から主人公が先輩に酷い扱いを受けていたとは思いがたく、最後まで読んでもあまり腑に落ちない感じが拭えなかった。

斜線堂有紀「百合である値打ちもない」/扉絵 たいぼく

 語るだけ語って「さぁ読者の皆さん、このお話をどう受容する?」みたいな終わり方をするのがいかにもこの作者らしい短編。プロゲーマーカップルのうち、美人の相方に釣り合うようもう一方が整形していく、というお話なんですが、過渡期にあるプロゲーマーという存在を題材にした着眼点が素晴らしい。アスリートである一方で、配信者として「見られる」側面も強い。ネット上の匿名コメや、ああした界隈の雰囲気をリアリスティックに描き出しており、二人の気持ちはどちらも偽りとは言い難く、見られることから逃れられない故に見られる自分たちの価値を気にしながら関係性を続けざるを得ない彼女たちを、愚かと笑うことは難しい。

乾くるみ「九百十七円は高すぎる」/扉絵 郷本

 百合というよりは「日常の謎」もの、といった方が適切な気が。これ憧れの先輩とそのフレンズが男性でも成立しちゃわない? ごちゃごちゃ計算しながらお店をめぐる描写はそれなりに楽しかったし、二人組のうち一方の気持ちを終盤で開示させることでちょっとしたどんでん返しを狙った意図も分かるのですが、百合小説としてお出しするにはいささかミステリ色が強すぎたような。

相沢沙呼「微笑の対価」/扉絵 清原紘

 結構大事なラストで作者が我を出してしまい、自身の別作品のキャラの存在を仄めかす描写には萎えてしまった。そういうのが全部ダメとはもちろん言わないが、このタイミングは違うのでは? とはいえ、ハラハラさせる展開の連続で引き込まれたし、魔性の女的ヒロインの印象が二転三転していく様や、追い詰められていく主人公の心理も良かった。

 

 お気に入りは、「椿と悠」「恋澤姉妹」「百合である値打ちもない」あたりになるかな。