あすはひのきになろう

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愛じゃないならこれは何/斜線堂有紀(集英社)【感想】

 

2022年2月13日読了。

 

あらすじ

斜線堂有紀のはじめての恋愛小説集。

『きみの長靴でいいです』
天才ファッションデザイナー・灰羽妃楽姫は、二八歳の誕生日プレゼントに、ガラスの靴を受け取った。
送り主は、十年来の妃楽姫のビジネスパートナー、そして妃楽姫がいつか結婚すると信じている男、妻川。
人生の頂点に到達しようとしている妃楽姫だったが、しかし次の瞬間彼女が聞いたのは、妃楽姫以外の女との、妻川の結婚報告だった。

『愛について語るときに我々の騙ること』
「俺さ、ずっと前から新太のことが好きだったんだ。だから、付き合ってくれない?」
そういう男――園生が告白しているのは、私――鹿衣鳴花に対してだった。私たちの関係は、どこに向かおうとしているのか。
男と男と女のあいだに、友情と恋愛以外の感情が芽生えることはあるのだろうか。

『健康で文化的な最低限度の恋愛』
美空木絆菜は死にかけていた。会社の新入社員、アクティブな好青年、津籠の気を引きたかった絆菜は、彼の趣味――映画にもサッカーにも、
生活を犠牲にして一生懸命頑張って話を合わせた。そして今、絆菜は孤独に山の中で死ぬかもしれない。どうしてこんなことに。

『ミニカーだって一生推してろ』
二十八歳の地下アイドル、赤羽瑠璃は、その日、男の部屋のベランダから飛び降りた。男といっても瑠璃と別に付き合っているわけではない、
瑠璃のファンの一人で、彼女が熱心にストーカーしているのだ。侵入した男の部屋からどうして瑠璃が飛び降りたのか、話は四年前にさかのぼる――。

『ささやかだけど、役に立つけど』
初めて高校の放送部の部室で鳴花と出会った時に、自分はいつか彼女と付き合うんじゃないかと、園生は思った。
しかしそれから十年経って、彼女と自分の関係に、新太が加わった。二人よりも三人のほうが、ずっと安定している。
自分たちは、このまま死ぬまで三人なのだろう――でも、それでいいのだろうか。

出典:https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790068-2

 

 

感想

 恋愛小説というには結構極端な事例ばかりなので、「うんうんわかるわかる」というよりは、「動物園で珍獣を眺めてる」みたいな気分で読みました。

 

「ミニカーだって一生推してろ」

 インターネットって怖いね~ってお話。徐々にエスカレートしていくストーカーの心理描写が見所ですかね。「一生推す」という言葉の重さを考えさせられます。

 

「きみの長靴でいいです」

 「舞台中毒」という言葉が印象的です。妃楽姫もまた舞台中毒にかかっていたのならば、真の運命の人は妻川ではないのでは、と思ったり。

「思うんだけどさ、本当に共に暮らすべき相手に渡すのは、花束とかガラスの靴でなく家の合鍵なんだよ。そして、交わす言葉は運命だの出会えてよかっただのではなく『今お付き合いしている人はいますか?』だったんだよ」(p.81)

 

「愛について語るときに我々の騙ること」

 関係性としては一番興味深いですね。男2女1の仲良し3人組で、男が男を好きになってしまい、3人でいることに固執する女とあえて付き合うことでその構造を維持しよう、という。そういう特殊な関係性を描きつつもチラチラ普遍性のあることを挟んでくるのが面白いですね。キスしてあっさり心を奪われてしまう鳴花ちゃんに萌え。

 

「健康で文化的な最低限度の恋愛」

 惚れた相手の趣味に合わせていくうちに、どんどん自分が自分じゃなくなって、それでも好きで好きで仕方がなくて……というお話。極端な例ですけど、一番一般化しやすいエピソードな気がしますね。一話目と同じでどんどんエスカレートしていく様が面白いけど恐ろしい。

 

「ささやかだけど、役に立つけど」

 三話目の続き。ここまで来たら一人だけ蚊帳の外の三人目の視点も読みたいですけどね。彼は彼で爆弾抱えてたりしないのかな。この10年後、20年後の方が気になる3人組ですね。

 

 どれもそれなりに面白かったんですが、愛じゃないなら何?って言われても「そんなん自分で考えろや」と思ってしまうのは良くないんですかね……。