あすはひのきになろう

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écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル/松岡圭祐(角川文庫)

 

2022年9月19日読了。

 

あらすじ

無人島に9人の小説家――
彗星のごとく出現した作家、櫻木沙友理。刊行された小説2作は、いずれも100万部を突破、日本じゅうがブームに沸いた。彼女を発掘した出版社が新人作家の募集を始めることを知ったラノベ作家の杉浦李奈は、親しい同業者の那覇優佳とともに選考に参加。晴れて合格となった2人は、祝賀会を兼ねた説明会のために瀬戸内海にある離島に招かれるが……。そこはかの有名な海外推理小説の舞台のような、“絶海の孤島”だった。

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000500/

 

 

感想

 売れっ子作家を見出した編集者に友人と一緒に招かれた主人公だったが、編集者が突然毒殺されたうえに古典的な孤島に閉じ込められ、恐怖に怯えつつ真相に迫っていく……みたいなお話。

 事件発生以降は、犯人からの謎めいた要求や次々と消えていく作家たちといった疾走感のある展開が続きます。タイトル通りのクローズド・サークルで犯人と目される謎多き作家・櫻木沙友理の人物像に迫っていく緊張感のあるシナリオには、サスペンス的な面白さがあります。

 一方で、二段構えになっている謎解きは、謎解きそのものの魅力は一段目の方が上回っている(別々の作家の作品をパッチワークすることで架空の売れっ子作家を生み出す編集者、という存在はなかなか魅力的です)ものの、その筋道に不自然さが強く(全員が全員同じ毒を同じように盛るか?)、どんでん返しで明らかになった真相は一つ目の謎解きに比して面白味に欠ける感が否めません。その過程にある熱い出版業界批判と零細作家の自己弁護も、売れてる作家である作者本人が登場人物にこの台詞を言わせているというのも相まってどこか滑稽かつ惨めで、主人公に冷静に諭されるせいで一層その感が強い。キャッチーな面白さはあるものの、根幹部分で上手く乗り切れなかった部分がある作品でした。