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écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに/松岡圭祐(角川文庫)【感想】

 

2022年11月11日読了。

 

あらすじ

事件の鍵は本の中にあり――。新感覚のビブリオミステリ!
中堅・グライト出版が大々的に売りだした新人作家REN。刊行した作品が女子中高生を中心に次々ベストセラーになるが、既刊からのパクり問題が浮上しブームは突如として失速。出版界の事件を解決してきた李奈には、被害作家からの相談が寄せられる。自著からの盗作も判明し、頭を悩ませる中、別の難題も抱えていた。「シンデレラの原典を探れ」という不可解なメールが届いたのだ。送り主の意図、そしてその正体は一体……!?

出典:https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000357/

 

 

感想

 RENなる作家の盗作疑惑と、主人公のもとに届いた「シンデレラ」の原典となる物語の発祥を探せという謎の脅迫メールの二つの事件を軸に物語が展開します。いずれも、内容は似てるっちゃ似てるけど明確な影響の関係を証明するのが難しい、という点で重なり合っていますが、切れ味の鋭さには欠ける印象でした。「シンデレラ」的な世界各地の物語を調べたりテキストマイニングしたりする展開はそれなりに面白かったです。ただし、この作者の蘊蓄はしばしば虚実織り交ぜており、参考資料も明記されまない*1ので、話半分で読む感じにはなりますが。

 一方で、犯人のやり方がひどく迂遠なせいで犯行の動機に説得感が欠け、延々犯人に言われるがままに動く主人公にもやや疑問を覚えます。死んだ大学准教授が事故死か他殺か、みたいな話も途中で放置されるし、主人公がメールを時間指定して送れることを知らないのにPCのデータの消去方法には詳しいのも気になります。二つの事件のテーマも上手く接続できそうで微妙にできていない感じがするし、愚鈍な犯人を鋭敏な主人公がやり込めるという単純な勧善懲悪に落とし込んでしまっているのも安っぽさを感じてしまいます。刊行ペースを考えれば十分な出来かもしれませんが、個人的にはあまり評価できない巻でした。

*1:フィクションであっても、文献を参照した事実に基づく作中の記述があるなら、巻末にその旨を付すのが一般的なはずです