人間みたいに生きている/佐原ひかり(朝日新聞出版)【感想】
2022年11月10日読了。
あらすじ
食べることそのものに嫌悪を覚えている女子高生・三橋唯。「食べること」と「人のつながり」はあまりに分かちがたく、孤独に自分を否定するしかなかった唯が初めて居場所を見つけたのは、食べ物の匂いがしない「吸血鬼の館」だった──。
感想
死骸を咀嚼して飲み込む、という行為に気持ち悪さを覚えるも、誰にも打ち明けられずにいた女子高生が、ひょんなことから人間の血液しか飲めないという男性と出会い、居場所を得ていく……みたいなお話。
大半の人が共感しづらいだろう食への違和を上手く伝えられているし、飾らない一人称語りも良い。事象のつながりと主人公の心情変化が追いやすく、端正な作りの物語だと感じました。自らの生きづらさと向き合うと同時に、他者の存在とも正面から向き合おうと変化していく主人公の姿にはカタルシスもあります。
とはいえ、主人公が悩みを打ち明ける対象が年上の男ばかりなのにはちょっと違和感も覚えます。泉はともかく、矢島にもあっさり明かすし、その割には同級生の友達との交流の描写は薄いし……。いや親しくない方がかえって打ち明けやすいというのは理解しますが、どうしてもみのりちゃんが不憫に思えてしまう。可能ならそちらの方をより掘り下げて欲しかった。展開上、泉との関係性がかなり中心に据えられていますが、表面上の関係性を乗り越え、真なるコミュニケーションを獲得していくという点では親との関係性、友人との関係性も同じくらい重要な位置づけになるでしょう。親の方は描写がありましたが、友人関係の方は中盤以降ややおざなりだったような気がしました。