86―エイティシックス―Ep.11 ―ディエス・パシオニス―/安里アサト(電撃文庫)【感想】
2022年8月7日読了。
あらすじ
降りかかるは、かつてない厄災。滅びゆく共和国に憎悪の絶叫が渦巻き――。
それはあまりにも突然だった。
全てを無に帰する、咆哮、閃光、衝撃。
〈レギオン〉の攻勢に人類全てが後退を余儀なくされる中、シンとレーナたちに命じられたのは絶望的な撤退作戦だった。
そして共和国へと再び足を踏み入れた彼らが目にするのは、確実な滅びを前にしても変わらぬ、変われない、かの国の姿。
それでも、作戦は始まる。
諸国を転戦し、帰る場所を知った彼らは暗闇の中を一歩ずつ進むが、しかし――。
眼前に立ちはだかる亡霊の群れ。
洞のように空虚な銀色の双眸。
なぜ助ける。赦すな。鏖せ。復讐を。
なぜ助けない。薄汚い色付きどもめ。憎悪と怨嗟の絶叫が響き渡る、Ep.11。
"鋼鉄の軍靴は血塗られたマグノリアを
踏みつけ、受難の火が彼らを焼く。"
感想
ここまでの戦果があっさり覆される導入はそれなりに衝撃的ですが、それはそれとして引き延ばしの手段じゃないよな?と下衆の勘ぐりをしてしまいそうになります。
で、メインは共和国の撤退戦を支援するお話。以前から、エイティシックスは何故共和国の白豚どもに唯々諾々と従ってきたんだ?というツッコミは散々為されてきており、エイティシックスなりの矜持、というのが一定の回答として示されてきましたが、今巻で復讐に走ったエイティシックスたちの存在が開示され、まぁ当然そういう発想する奴もいるよな、という敵と戦うことになります。あらすじ的に、これまでエイティシックスを痛めつけてきた白豚どもが酷い目に遭って楽しい!という読み方をすることも駄目ではないと思いますが、現実や自分自身を省みると、一概に共和国民を物語の中に切り離し、単なる悪役に対する因果応報として受容することが正しいとは言えないように思います。まぁいわゆる上級国民だけが丸々無傷で生き残っているのはかなり胸糞案件だったりはしますが。ただ、犠牲が生じざるを得ない戦争において、誰を犠牲とするのか、自分を犠牲にできるのか、犠牲となる人々に対してどのように向き合うべきなのか、といったところを、共和国の皆さんを見てると考えてしまいますね。
レギオンがどんどん人間らしさみたいなものを獲得してきていることは脅威である一方で、その人間性もどきが戦争終結の鍵を握る伏線ではないか?などとも思ったり。ラストではラスボスと目される存在も明らかになり、いよいよ最終章っぽいですが、果たして。