あすはひのきになろう

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ミッキーマウスの憂鬱ふたたび/松岡圭祐(新潮文庫)【感想】

 

2021年12月2日読了。

 

あらすじ

東京ディズニーランドで清掃のアルバイトをしている、永江環奈。ある日、彼女はテーマパークの顔として活躍するアンバサダーになれることを知り、挑戦を決意する。不可能だと言われながらも、周囲の応援を受け、夢に向かって前進する環奈。迎えた選考会当日は雨、さらに園内で大騒動が発生して。知られざる〈バックステージ〉を舞台に、仕事、家族、恋、そして働く者の誇りを描く、最高の青春小説。

出典:https://www.shinchosha.co.jp/book/135752/

 

 

感想

 面白かったですが、前作よりもややこじんまりした話だったかもしれません。前作のキャラも登場しますが、実際の時間と同じく16年の時間が経っており、なかなか感慨深いものがあります。

 物語は主人公のアンバサダー候補としての奮闘と、園内をうろつく謎の老人と閉園後も居残る不審者、という二つを軸に進みます。前者に関しては、本作でも言及されるような「感動系」の本などで、「カストーディアル」が一種パークや創業者の理念を象徴するような扱いを受けていることと、(本作における)現実とのギャップが面白い。特に母親の「結局清掃スタッフじゃん」的な言葉がなかなか辛辣で泣ける。日陰者が成り上がる的なシンデレラストーリーっぽいお話なので、より単純に楽しむこともできました。ただ後者のうち、謎の老人云々の話は結構微妙に感じて、提示される「実は裏でカラスを銃で駆除しているのでは」という陰謀論めいた噂がかなりしょうもない。物語にきっちり回収されたから構わないといえば構わないんだけど、もう少し魅力的な謎が欲しかった気がします。不審人物も、謎としては面白いけど「残って何をしていたか」という真相がやや納得できず。そんな発想になる?というのが正直なところ。まぁでも世の中にはいろんな人がいるからなぁ……。

 キャラの心情も含めてめちゃくちゃ語りが説明的なのはいつも通りだけど、「夢を支える」構造が二重になっている指摘は面白かったし、主人公の視野が広がる様も良い。ただ、話のハイライトを仕事へのプライドとか、やりがいみたいなのに還元してしまうのは個人的にはあんまり好みではなかったかな。まぁ単純に主人公がアンバサダーになって終わり!(ネタバレにつき反転)だと物語としてあんまり綺麗ではない、ってのもわかりますが。取ってつけたようなイケメンとの恋愛話も、仕事を頑張っていたらイケメンとも付き合えました!的な展開で首をひねってしまった。頑張ってる姿は誰かが見てくれているという趣旨のお話だと思うけど、別にそれがイケメンである必然性はないでしょ。

 ごちゃごちゃ言ったけど、前作と共通して本作、というかこの作者の最大の魅力は「限りなく現実と共通した物語世界」にあるので、実在の超有名テーマパークの裏側を覗けた気分を味わえることは請けあい。ただ前作と違って、本作ではミッキーが最後まで「ミッキー」で、裏側感は相対的に薄いかも。それがまた違った切り口で面白いんだけど、話のつながり上読まなくても問題ないものの、個人的には前作ありきの作品だと思うので、読むとしたらまずは『ミッキーマウスの憂鬱』から読むのをお勧めするかな。