あすはひのきになろう

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かがみの孤城/辻村深月(ポプラ社)【感想】

 

2022年2月4日読了。

 

あらすじ

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

出典:https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008113.html

2018年本屋大賞受賞作品。

 

感想

 それなりの長さですが、一気読みする程度には面白かったです。ただ、大満足かと言われると首肯しがたいところもありました。

 不登校の女子中学生・こころの一人称視点で話が進むのですが、子供の頃の何となく思っていたことを感覚を言語化するのが上手いと感じました。子どもなりに親や教師の考えを見透かしてはいるのですが、もちろんその全ての考えを汲み取れているわけではない、みたいな。こういう思春期の感覚の言語化武田綾乃とかも共通して得意にしているところだと思います。学校へ行っていない子どもたちが集まる謎の空間、みたいな着想自体に特別な斬新さは感じないものの、それぞれのキャラの絡みが生々しく、仲が良いわけでも悪いわけでもない、みたいな微妙な感じだった人間関係が、様々な出来事を経て絆を深めるに至る描写は説得的でした。童話のモチーフも悪くないギミックだったと思います。

 一方で、ストーリー展開の軸となるギミックは非常に読みやすく、途中でミスリードが入るのですが、伏線があからさますぎてさすがにそっちに誘導するのは厳しいのでは……?と思ってしまいました。その分、エピローグも含め綺麗なオチがついていることは確かではあるのですが。そうした点から、中盤くらいまで「これは題材的にもギミック的にも小中学生をターゲットにした方が良いのでは?」と思いながら読んでいたのですが、最後まで読み切るとそれも微妙かなと思いました。何故かというと、この作品が良くも悪くも「優しい世界」すぎるきらいがあるためです。主人公の抱える問題は、理解ある大人の力添えや友人との語らいを経て、解決というか、前向きな形で処理されます。これ自体はハッピーエンドで良かったねって感じなんですが、仮に同じような境遇の主人公の同年代が本作を読んで、「励まされた!私も頑張ろう!」となるかと問われるとそうはならないんじゃないか、と思ってしまうのです。少なくとも、自分なら「お前だけ救われてんじゃねぇ」と主人公にキレてしまう気がします。まぁそんなふうに思うお前に問題があると言われればそれまでなんですが、ファンタジーであることも相まって、ある種の生々しさがあるにもかかわらず虚構的な側面が強調されて、なかなか自分に引きつけて読むことが難しいかもしれないと感じました。

 終盤の各キャラの掘り下げも、ダイジェスト感が強く、また主人公が他のキャラの過去を一方的にのぞき見ているという構造に好感を持ちがたく、作劇的には盛り上がるシーンのはずなんですが、個人的にはう~んとなってしまいました。できるならもっと丁寧に各キャラの過去を描いて欲しかったし、ダイジェストになるくらいならあえて語らないという選択肢もあって良かったと思います。また、伊田先生や真田美織といった、主人公を追い詰める側について、「理解できないもの、その必要がないもの」として切り捨ててしまったところもやや引っかかるところです。もちろん、現実に即して考えればそれが正着なのですが、作者の力量を考えればそこに踏み込むこともできただろうに、「優しい世界」を演出するために深く触れなかったのではないかとも思われました。作られた「かがみの城」を描く本作それ自体が虚構の城のように思われてしまったのは、魅力も大いにある分、残念なところです。